普通教科「情報」・単元指導計画案
作成者:江本理恵(助言:松田稔樹)
 「情報B」:(2)コンピュータの仕組みと働き
学習指導要領 学習活動の概要 指導上の留意事項
(ア)コンピュータにおける情報の表し方: 文字、数値、画像、音などの情報をコンピュータ上で表す方法についての基本的な考え方及び情報のディジタル化の特性を理解させる。

(6時限)

 

【導入実習】(1時限)
・次の「白黒パネルで数を表現する方法を考える」課題に取り組ませる。
a).5×3のマス目に白黒パネルをはめて、0~9までの数を表す方法
b).5×3のマス目に白黒パネルをはめて、0~15までの数を表す方法
c).5×1のマス目に白黒パネルをはめて、0~15までの数を表す方法
d).5×3のマス目で最大いくつまでの数が表せるか?
e).5×3のマス目に白黒パネルをはめて、9桁の数を表す方法
f).5×3のマス目に白黒パネルをはめて、99桁の数を表す方法
1つ1つ順番に課題を提示し、時間を決めて回答を考えさせ、その後、教師側から回答例を示す。
・作業用に、5×3のマス目を複数配置したプリントを作成し、配布する。
・1つではなく、複数案を考えるように指示する。
・例も複数用意する。
・(課題eの回答提示後)複数の表現方法がある一方で、同じ情報の解釈の仕方も複数あることを体験的に認識させる
【見方・考え方の座学+定着実習】(5時限)
・「白黒パネル」課題で生徒に体験的に認識させたことを以下の形で「情報的な見方・考え方」として明示的に示す。
・同じ情報を複数の方法で表現できる。それぞれの表現方法には、異なる「良さ」があり、それらの「良さ」の間にはトレードオフ関係がある。
・逆に、ある情報を解釈する方法も複数ありうる。従って、情報の共有には、表現・解釈ルールの共有が必要である。
・情報を表す工夫として、空間的、時間的に配置を工夫するという考え方がある。
・文字、数値、画像、音のディジタル化の基本的な仕組みを説明しながら、その背景にある「情報的な見方・考え方」を以下の通り認識させる。
・説明に関連して、小規模の課題(定着実習)にも取り組ませる。
【前提】
・コンピュータの内部では、情報を2進数で表している。
・2進数は、「人間にはわかりにくい」が、「機械的には処理しやすい」という長所がある。どちらを優先すべきかを判断して2進数が使われた。
【数値】
・情報の量を表す単位として、「ビット」という単位があり、2進数の桁数に相当する。
・コンピュータ内部では、基本的にある決められたビット数で数を表現する。(→実習1)
・負の数を表すためには、1つ(最初)の桁を符号用に使えばよい。
・小数を表す方法として、固定小数点法と浮動小数点法がある。(複数の表現方法の存在、「良さ」のトレードオフ、目的と状況に応じた選択)
・有限桁で小数を扱う際、計算誤差が生じる場合がある。これを克服する1つの工夫として倍精度表現がある。
【文字】
・文字を表すための表現ルール(=文字コード)にもいろいろなものがある。(→実習2)
・半角の英数字はどのコードでもほとんど文字化けを起こさないが、日本語では文字化けが起こる場合がある。(表現・解釈ルールの共有の必要性)
・日本語は扱うべき文字(漢字)の数が多く、扱う文字の範囲を限定することで表現が可能になった。(範囲を絞り込むことで問題解決が用意になる、範囲を絞り込むために意思決定に必要な情報を集めて活用する必要がある)
【画像】
・画像の表現方法にも、複数の方法(表現形式)がある。(→実習3)
・ビットマップ形式とベクトル形式では、表現したい対象のどの部分に着目しているかが違う。(情報の分解の仕方によってさまざまな表現方法が考えられる、表現方法によって異なる「良さ」がある、「良さ」の間にトレードオフ関係がある、目的や状況に応じて選択する必要があり、選択権と同時に結果への責任がある、表現は変換可能なので積極的に変換すればよい、ただし変換することのデメリット(情報が落ちる、処理にコストがかかるなど)もある。(→実習4)
【音声】
・自然に存在している情報をディジタルに変換する際に、必ず落ちてしまう情報がある。
・ディジタルデータを作る際には、必ず、値と数値を1対1で対応づける。端数があれば、それは切り捨てる。(→実習5)
・これにより、ディジタル化された情報は、複製しても劣化しない、雑音、減衰、欠落がおきても修復可能、といった特徴を持つようになる。
全体を通じて以下の点に留意する。
・説明だけでなく、実習を通じて確認させる。
・単に情報技術に関する知識を与えるのではなく、背後にある「情報的な見方・考え方」を中心に据え、それが情報技術を活用した問題解決に役立つことを強調する。
・情報の表現方法を固定的に捉えず、目的や条件に応じて使い分けることの重要性を強調する。
・実習1として、自作のソフト(東京工業大学松田研究室学生の高橋伸二氏作成)を用い、表現できる範囲を超えた計算でオーバーフローが起こることを理解させる。
・実習2として、ブラウザで日本語表示のページを表示させ、「表示」用の文字コードを換えた時に「文字化け」という現象が起こる場合があることを体験させる。
・実習3として、「地図を他人に伝える」課題を以下のさまざまな状況で考えさせる。
・紙と鉛筆(ペイントソフト)のみが使える
・さらに、病院、店、家などの絵記号シール(ベクトル形式のサンプル画像)が使える
・実習4として、ベクトルデータをビットマップに変換し、さらにベクトルデータに変換させ、それを拡大縮小させてみる作業を行わせる。
・実習5として、波形のグラフをある間隔でくぎり、その値を読みとり、四捨五入して整数に直し、表計算ソフトに入力する。その入力したものを元にグラフを作成し、元のグラフと比較させる。
(イ)コンピュータにおける情報の処理: コンピュータの仕組み、コンピュータ内部での基本的な処理の仕組み及び簡単なアルゴリズムを理解させる。

 (4時限)
【導入実習】(1時限)
・魚釣りを題材とした2つの課題を提示し、プリントに従って作業させる。
【課題1】
魚を釣り、一番大きな魚の魚拓をとり、それ以外は逃がしてやる。逃がす魚は弱る前にできるだけ早く逃がしたい。どのような方法をとる?
【課題2】
4人の中から魚釣りチャンピオンを決めたい。2人ずつで対戦し、釣った魚が多い方を勝ちとする。どのような手順でチャンピオンを決めるか?(ただし、総当たり戦にはしない)
・2つの課題で異なる手順が出るはずで、その理由を考え(議論)させる。
・上の課題は、「一番○○なものを選ぶ」という目的が共通なことを確認する。
・上の課題を「4つの数の中から一番大きな数を選ぶ」という課題に置き換えて、出てきた2つの手順を表計算ソフト上に記述させる。
・表計算ソフト上に記述した手順を、5個、100個、1000個の数の場合に適用するには、どちらの手順が再利用(拡張)しやすいかを考えさせる。
・表計算ソフトは、手順のステップ実行を視覚的に理解させるために用い、操作習得を目的としない。
・表計算ソフトでの作業に個人差が出る可能性が高いので、プリントでヒント(指定した2つのセルの値のうち大きい方を表示する式など)を与える。
・比較する数の個数を多くした時、【課題1】の手順の方が、コピーして再利用しやすいことが実感できる。
【見方・考え方の座学】(2時限)
・導入実習をふまえて、以下の知識や情報的な見方・考え方を示す。
・情報の処理手順(問題解決の方法)は常に複数存在し、それぞれ違う「良さ」があるので、より良い方法を選択する必要がある。
・コンピュータを使って処理する場合には、それを活かせる「良さ」を重視する必要がある。(例えば、情報を変更した時に容易に対応できるようにするなど。)
・上で行った表計算ソフトによる処理過程と同様、コンピュータの内部では、1つ1つの命令がステップで動いている。
・仮にコンピュータの仕組みが違ったら、「より良い」手順が違ってくる。
・コンピュータの五大機能を説明し、人間が情報処理する過程も同様に考えられること、五大機能に基づいて情報の処理手順を考えると考えやすいことなどを説明する。
・コンピュータは、特に「制御」に特徴があり、それを活かすために、人間の作る「プログラム」が重要な役割を担っていることを説明する。
・コンピュータの仕組みが変わったら「良い」手順が変わってくることを認識させるために、以下の課題を考えさせる。
・1つの天秤を用いて4つの分銅の中で一番重いものを探す手順は?
・複数の天秤を用いて4つの分銅の中で一番重いものを探す手順は?
・「より速く」探せる手順はどういう手順か?
・天秤が1つの場合と複数の場合とで、より良い手順が違ってくる。
・五大機能を暗記させるのではなく、人間の情報処理の過程と関連づけたり、さまざまなソフトウェアの機能と対応づけて解説する。

・天秤の数は、並列処理などの比喩であることを簡単に説明する。コンピュータの仕組みが変わらなくても、ネットワークでコンピュータを複数台つなげば同じような状況を作れることも簡単に触れる。
【定着実習】(1時限)
・処理手順を記述する模擬的な体験をさせるために、以下の課題を提示し、プリントの指示にそって作業を進めさせる。
・4つの分銅の中から一番重いものを探す。使える道具は天秤1つ。
・4つの分銅を軽い順に並べ替える。使える道具は天秤1つで、分銅は必ず分銅ケースに戻すものとし、机の上などには置けないものとする。
・並べ替えの手順を表計算ソフト上で記述させる。
・実際に存在している並べ替えのアルゴリズム(バブルソート、クイックソート)を紹介する。
・使える記述方法は、「分銅Aを右の皿にのせる」など、プリントで指定する。
・それぞれのアルゴリズムを理解させることはせず、さまざまな方法があり、それぞれが異なった「良さ」を持っていることを強調する。
(ウ)情報の表し方と処理手順の工夫の必要性: コンピュータを活用して情報の処理を行うためには、情報の表し方と処理手順の工夫が必要であることを理解させる。

 (4時限)
【導入実習】(1時限)
・(1)アで行った「合宿の予約」課題を提示し、授業を思い出させる。
・この課題において、宿や施設の値段及び空き状況の情報を、複数の表現方法で提示し、その表現を活かした処理方法を発想させる。(討論)
・表計算ソフトを用いることを前提とする。
・実際に処理を行わせる。
【見方・考え方の座学】(1時限)
・導入実習を元に、以下の見方・考え方を提示する。
・情報の表現・処理ともにさまざまな方法があり、「組み合わせ」によりさらに発想が広がる。固定的な方法にとらわれず、工夫することが大切。
・「数値を入力すべきところに文字が入力されたらメッセージを返す」など、人間が犯しがちなミスに対処する工夫も考える必要がある。
・表現方法を決めると、それに適した処理方法がある程度絞られる。
・逆に、求めたい結果やその表現を見通して、情報収集する時から表現方法や処理方法を考えることが大切。
・情報は変換可能であり、必要に応じて積極的に変換すればよい。
・(1)アで学んだ日常的な問題解決と、(2)ア、イで学んだ情報の表現・処理を関係づける。
  
【定着実習】(2時限)
・ 同じく「合宿先の予約」課題を発展させ、以下の課題を課す。
・宿、施設の値段及び空き状況の情報を電話で収集したとし、表計算ソフト上のシートに表を設計し、入力させる。(生徒に工夫させる。)
・入力した情報を処理させて、3泊分の宿泊費、1人当たりの合宿費用等を求めさせる。
・実習後に、自己評価させる。
・情報はプリントで配布し、表計算ソフト上でどう表現するか工夫させる。
・表の設計・表現方法と処理方法がうまくかみ合っているかどうかを自己評価させる。
※時間配分は、学習指導要領に記述されている情報ではなく、計画立案者の実施計画案である。